前回顎関節症についてお話しました。原因は様々ですが、歯科ではどんな治療になるかご紹介します。もちろん症状によってはどの治療が有益かは異なるので内科などの受診が望ましい場合もあるでしょう。ここではあくまで歯科でできる範囲のお話になります。
不正咬合からくる過度な顎へのストレスが問題であれば、噛み合わせを改善することで症状は落ちついてくるでしょう。矯正装置で歯並び・噛み合わせの一般的な治療を行います。症状が重い時にはスプリント治療が有益です。プラスチック製のマウスピースを装着し顎関節への負荷を緩和させます。不正咬合が引き起こす歯ぎしりなどもこれで解消されることがあります。正しい関節の位置で作られたスプリントはによって筋肉の緊張がとれたり、関節内の炎症が落ち着くのを見る事が多いです。
不正咬合と診断された人の中には、既に何らかの関節障害を持っているケースも少なくありません。関節円板や顎関節頭が損傷した状態で矯正治療を始める事はできませんので、症状が軽減し、安定を確認するための治療から開始します。自覚症状があれば早めに対処し、生活の中で上手くつき合っていくことも大切になります。
顎関節症を訴える人は20代以降に多いです。顎関節は耳の近くにある下あごと上あご(頭蓋骨)を筋肉で支えている関節部分。口を開け閉めした時に動く関節です。顎関節症はこの支えている筋肉が何らかの原因で炎症を起こし、口の開閉時に音がなったり、頭や顔周りの痛み、食事が思うように取れない、といった症状です。原因はストレス、歯ぎしり、外傷と様々で、不正咬合も関係していると言われています。
下あごは筋肉で支えられ左右前後に動かせます。骨と骨の間には衝撃を吸収するクッションの役割の軟骨「関節円板」があり、何だかの問題があった場合には徐々にこの関節円板の位置が変化してきます。円板が円滑に動かないことで、音が鳴ったり、やがて痛みを伴うため顎の動きも制限されてきます。これを顎関節内障といいます。
矯正治療では顎関節にも着目し、関節の正しい位置でズラすことなく自然に噛める噛み合わせにすることが大切と考えます。
ストレスなく生活することは困難な現代社会、原因も様々な関節症ではありますが、噛み合わせが悪いことで顎に負担がかかっているならまずはその環境を整えることが悪化を防ぐ一歩かもしれません。
歯並びがガタガタになるのは、歯の生えるすき間が足らない、つまり歯と土台のアンバランスから起こります。
成長の止った成人であれば、ガタガタの程度や骨格のズレも小さい場合には非抜歯で治療することも可能かもしれません。しかしガタガタの大きい場合には、スペース確保のために歯を抜いたり、骨格のズレが大きければ外科手術を伴う治療も検討するでしょう。できれば外科手術をすることなく、できれば抜歯をする事なく、という希望をほとんどの患者さんがお持ちだと思います。そして私たち歯科医師も、できるだけ患者さんの思いに寄り添った治療を、なおかつ良い治療ゴールを目指しています。矯正用アンカースクリューはその両者の思いに近づき、治療の選択肢を広げてくれる救世主とも言えるかもしれません。
写真のケースでは、非抜歯で歯を並べた後にアンカースクリューを用いました。歯を抜かずただ並べるとスペースが足らない分ほど出っ歯傾向になり前歯は噛めない状態になります。このままでは噛み合わせに問題を残したままですので、これを解消させるためにアンカースクリューを用います。
成長を終了した成人の方の骨のズレへのアプローチは様々です。程度が小さければ歯の傾きで補うように解決しますし、大きなズレであれば矯正と同時に手術をして骨のズレを改善する治療が考えられます。前後のズレ、左右のズレと条件が重なってきた場合、手術での改善が望ましいものとなるでしょう。このような治療は「外科矯正」と呼ばれ、治療の期間は2年くらいといわれてます。流れとしては、矯正装置をつけて歯をキレイにならべる→骨のズレを手術でとる→最終仕上げ→固定 の順番で治療を行います。
術前に矯正装置で歯を並べておくのですが、その段階では歯はきれいに“並んだ”状態で“噛めていない”状況になります(写真左上)。手術後に上下の歯が噛んだ状態にし、その後歯並びの微調整と術後の固定を約半年程度続けて終了します(写真右上)。この写真のケースでは、上下の顎骨の手術を行いましたのでプレートも上と下に入っています。時期がくればこのプレートも撤去可能になります。
矯正の専門医と、手術は“口腔外科”の専門医が連携して行います。「顎口腔機能診断施設」で治療を受ける場合は、矯正・手術ともに健康保険による保険が適応されます。
広島の矯正歯科専門『ののやま矯正歯科医院』のブログ