噛むことと顎の発達

噛み合わせと健康は密接に関係していると言われています。近年は、噛み合わせが体に及ぼしている影響が科学的に証明されつつあり、皆さんも様々な記事を目にしたことがあるかもしれません。
「よく噛んで食べなさい」と言われた経験がある方も多いでしょう。噛むことは、顎の健全な発達を促しますし、自分の歯でしっかり噛む刺激が唾液を出し、脳細胞を活性化することにつながります。顎(骨)がしっかり発達してないと、生えてくる歯のサイズと顎との大きさのアンバランスを招き、スペースの無い場所には歯は並びきることができないため、ガタガタの歯並びになります。しかし一方では、噛み合わせの良くない状態で無理に「しっかり噛む」ことを続けると、顎の関節や歯自体にダメージを与えることもあります。つまり、しっかり噛む必要が無い生活が、良くない歯並びや噛み合わせを生む循環もあるのです。
現代の日本の食生活は、美味しくて噛む負担の少ない柔らかい食べ物へと変化を遂げてきたわけですから、良くない噛み合わせ(不正咬合)は個人の問題というよりも時代の変化がもたらした現代病とも考えられるかもしれませんね。

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矯正治療で身体も歯も健康に

成人になって矯正治療を希望される場合、“見た目”だけでなく“一生自分の歯で美味しくご飯を食べたいから”が主な動機になっているようです。高齢化社会を迎え、長い人生をより良く生きることに高い関心が集まっています。噛むことによる脳への刺激が認知症の予防につながりますし、何より歳を経ていくにつれ美味しく食事を摂ることの重要性は増していきます。
人間の歯は28〜32本ほどで構成されています。食べ物を噛み切る・噛み砕くの一連の作業は、前歯や奥歯が役割分担をしてチームプレーで行っています。この歯は飛び出して咬めてなくてもイイ、などという歯は1本もないのです。もし噛み合うことに参加していない歯のフォローをその他の歯がして負担加重になれば、歯を失う原因になっていく可能性もあります。
ダメージが出る前に全ての歯でしっかり噛めるお口の環境を作る矯正治療は、「悪くなったら治す」のではなく「大切な歯を長持ちさせる」予防処置ともいえると思います。

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永久歯が少ない場合の治療

主に小学生の間に生え替わる永久歯。永久歯の本数は親不知と呼ばれている奥歯をのぞけば、上下14本ずつ計28本あります。しかしこの永久歯の本数が生まれつき少ない場合があります。これを“先天性欠如”と呼びます。原因の断定は難しいのですが、歯の中心から数えて2番目と5番目の歯に先天性欠如が起こりやすいと言われています。
欠損している部位の乳歯が長く抜けずに残っていたり、抜けてもなかなか次の大人の歯が生えてこなかったりしてレントゲン写真を撮って初めて知ることもあるようです。永久歯はどの歯もそれぞれ大切な役割がありますので、良い噛み合わせという視点から考えると無いままにしておくのは望ましいとは言えません。
無い歯を補う方法は色々あります。人工の歯を作る方法もありますし、矯正治療で全体の歯を動かしてバランスのとれた噛み合わせにすることもできます。2012年から6本以上の先天性欠如がある場合の矯正治療には保険が適用され、2014年からは歯科矯正用アンカースクリューも保険が適用されるようになり、治療方法の選択肢も増えました。治療スタートの時期や方法は患者さんの希望をふまえて計画していく事になります。

このレントゲンは下の歯の前歯2本(右下1番、左下1番)が先天性欠如です。

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歯並びとおしゃぶりの関係

おしゃぶりの使用には様々な理由が考えられます。子育てのスタイルの変化や、おしゃれなデザインの登場、口呼吸の防止になると考える人もいること、外出先で子供がぐずった時のお助けに、など子育てする上で何かと便利なのかもしれません。
しかし良い事ばかりではなく、ミルクを飲む量や時間の減少、中耳炎になりやすいことなど、マイナス面もわかっています。おしゃぶりが長期化すると今度はおしゃぶりの代わりに指を吸ったり、舌を突き出すのが癖になることも少なくありません。1歳半や3歳児検診に行くと、おしゃぶりや指しゃぶりを長く続けているお子さんは一目でわかるほど顎の骨やかみ合わせ・歯並びに大きく影響が出ています。
母子手帳の幼児期1歳頃のページには「歯並びやかみ合わせが悪くなることがあり自分で声を出す機会が減るためコミュニケーションが少なくなる」「おしゃぶりは早めに卒業しましょう、歯並びや口や唇の形が心配な場合は早めに歯科医師などの専門家に相談を」と記載もされています。
様々な面を持つおしゃぶりの使用ですが子供自身ではその使用を制限できません。かみ合わせへの悪い影響を心配される方は、離乳の時期をやめる目安にしてはいかがでしょうか。かみ合わせの悪化も早期に対応することががスムーズな改善につながります。
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保険適用の矯正治療(先天性疾患)

矯正治療で健康保険を適用できるのは前回のブログでお話した「外科矯正」ともう一つ、先天性疾患に起因する咬合異常の場合です。この先天性疾患とは、唇顎口蓋裂、第一第二鰓弓症候群、ダウン症候群、鎖骨頭蓋異骨症、クルーゾン症候群、トリチャーコリンズ症候群、ピエールロバン症候群、ラッセルシルバー症候群、ターナー症候群、ベックウィズウィーダーマン症候群、尖頭合指症 などです。(この他の先天性疾患を当院のHPにて紹介しております。詳しく知りたい方はHP(矯正歯科講座 【は】>保険適応)をご覧下さいませ。 →https://www.nonoyama-clinic.jp/) これらの疾患では顎の骨の発達具合が原因でかみ合わせや歯並びに問題が出てくるため保険での治療が認められています。矯正歯科は歯列を作っていく大事な役割を担うため、口腔外科や形成外科など他科と連携、協力しながら治療を進めていきます。育成更生医療機関で治療を受ける場合に、自己負担分も行政から補助されるシステムもあります。治療が長期に及ぶため家族の方の心配ありますが、保健所や全国的な患者さんの親の会でも様々な情報を得られますので相談されるのもよいでしょう。 

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